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アルツハイマーの親父

父がアルツハイマー認知症であると発覚してから3年。既にその時、発症してから3年経っていたとの診断だった。なぜすぐ気づかなかったかというと、元々認知症みたいな人だったからだ。

  • 普段から怒りっぽい
  • 物忘れが激しい
  • 同じ話を繰り返す

それらが異常に酷くなって初めて認知症なのでは?と疑い始めて、あちこちに相談するなどして診察を受けさせてやっと発覚した。

父の性格を知らない人に症状を説明すると「それは認知症が言わせてることだよ」と言われるのだが、元からそういう性分もあったので、ちょっと理解してもらえない感じがある。

例えば認知症の症状の一つで易怒性が増すというものがある。簡単にいえば怒りっぽくなるのだ。しかし親父は昔から気難しく、世間が狭く、気が小さいため心のキャパシティが低く、すぐ興奮して怒鳴る。外でそれをやると喧嘩になってしまうが、世間が狭くて気が小さいために外に飲みに行くことがなく、人に仕えたこともなかったためにトラブルにはならなかった。家の中だと皆が鬱陶しがって黙るため、親父にとっては困った状況を解決してくれる唯一の方法だった。それを矯められることなくこの歳まで来てしまっている上に認知症なのでもうどうにもならない。
俺は親父の怒鳴る姿が一番嫌い。相手のことを思いやる心理が一切なく、ただただ不機嫌を発露するだけ。周囲を不快にさせるだけで何も産まない。本人自身をすら貶めてる。そして認知症となって反省の能力自体が失われたため、遂に本人はその残酷さについて全く理解しないまま終わる。不毛すぎる。

認知症といえば物忘れだが、昔から本当にひどかった。仕事に必要な道具をしょっちゅう忘れて家に取りに帰ってきていたし、請求書や領収書を何処かにやるのもしょっちゅう。興味の対象が狭く、新しいことや苦手なことに取り組みたがらないために、脳を鍛えるようなことは一切していない。工務店の下請け自営業の個人商店をやってて、人との付き合いも限られていた。そのせいもあって自分の感心のあるところ以外のことは、そもそも覚えようとしないのだ。
話題に乏しく同じ話を繰り返すのも世間が狭いし、新しいことに取り組まない、受け入れないから。父の精神的成長は30歳頃には止まっていたのではないか。困ったら怒鳴る、罰が悪くなってあとで表面上謝る、でも反省しない、結局は人のせいにする、を繰返してきたから成長などするはずもない。

そして食生活。いくら言っても酒を控えることはなかった。肉体労働ということもあったが夕食は、阪神の試合中継に心を奪われながら、食べ物には一切関心を持たずに機械的に箸を動かしつつ、ビールを流し込み、ひと通り終わると、最後に必ず米を食べる。それも阪神の試合に怒りながら。家族と会話しながら味覚に集中して楽しむのも脳にとっては大事な事なのだが、家族と夕食を楽しむよりは阪神の試合中継の方が大事だった。毎日それだから40代から高血圧と糖尿病を発症し、投薬治療をずっと続けている。それも母任せ。自分で薬を飲んだり食事を調整したりということがどうしても出来なかった。
時代の制限もあるのだけど(主食が糖尿病の主犯だとは分かっていなかった)、知識の枠を広げようとせず、狭い知識に安住するのみだった。60代頃に脳のMRIを撮った際、微小な梗塞がたくさん出来ていた。糖尿と高血圧で血管がもろくなっていたせいだろう。70代前半でアルツハイマーになった一因だと疑っている。これでタバコをやっていたらもうとっくに死んでいただろう。

そんな老人がアルツハイマーなのでホント大変。元々大変だった人がもっと大変になってしまった。終日監視しているわけじゃないから、酒を飲ませないということがまずできない。上手く誘導しようとしても頑ななので人の話には耳を傾けない。やり過ぎると爆発して怒鳴りまくるし物を投げつけてくる。なので酒については諦めている。冗談めかして一杯だけだよと制限するのが精一杯。

世間が狭くて頑ななため、他者と宥和することが苦手。そのためデイケアの利用がどうしてもできない。一度試したがキャパを超えてしまって激怒して大騒ぎになった。病気になって入院した時も毎日見舞いに行ってるのに、それを覚えてないから「お前らは冷たすぎる!」「ワシの財産を奪う気か(そんなもんありゃしない)」と怒鳴りだすし、入院を嫌がって看護婦の静止を振りきって脱走したこともある。

何かあると母のせいにして怒鳴るので、母も精神を病みかけてしまった。一時期、体調を崩した母を入院させていたのだけど、説明するのが非常に難しかったし辛かった。「母が逃げた!あいつは腹黒いやつだ!死んでしまえ!」と繰り返したと思うと「帰ってきてくれー」と泣くのをなだめ、病気だから良くなったら戻ってくるよと説明して納得させても、次の日にはそれを忘れているのである。そしてまた母を詰り、介護に当たる家族を詰る。認知症介護に当たりだした最初の頃には、症状のせいだと分かっていてもあまりの勝手な物言いに一度キレて怒鳴りあったことがある。
最近また母が入院した際、前日に見舞いに行ったことも忘れて、母の在所を尋ねてくる。そして「あいつは俺を恨んでいる」と妄想をふくらませて怒ったり泣いたり。「楽しそうに話してたよ?夢をみたんじゃないか」となだめて納得させても、1時間と持たず同じサイクルを繰り返す。

アルツハイマー患者に用いられるアリセプトは現在10mgを投与している段階。まだ摂食、排泄困難などには至っていないが、そこまで進行することは確実で、本人の死以外でそれを阻むことはできない。そうなれば施設に預けるほかはない。多少お金がかかってもいいから早くそうなってくれないかと思うこともある。

介護支援が整ってきている時代に居てよかった。ケアマネと相談しながらヘルパーさんの協力を得て介護にあたってるけれど、それらの支援が受けられなかったら仕事どころの騒ぎじゃない。家族の愛情だって限界があるのだ。