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ゴジラ -1.0

この5月の連休中にAmazonプライムビデオで独占配信された「ゴジラ-1.0」(以下、マイゴジ)を観た。妻が先に劇場で観てて、意外にも好評だった。俺は劇場に行く気にはならなかったので配信を待ったのだが、なるほど期待以上で、アカデミー賞獲るだけの値打ちはある。劇場に観に行っときゃよかったと後悔した。映画館に行って後悔した「シン・ゴジラ」とは真逆だ。

俺はゴジラ物の映画はあまり観てきていない。オリジナルは未見だし、途中のシリーズ物も全く観てない。かすかにテレビでなんかやってたような記憶はあるのだけど、ミニラとか、子供心に「子ども舐めんな」と思ってたぐらい。

そもそも、オリジナル版の「ゴジラ」の存在を知ったのは中学生の時にレンタルビデオで観た、映画版うる星やつらビューティフル・ドリーマー」のワンシーン。ああ、回顧オタクがマウント取り合って喜ぶやつね、という程度の認識だった。当時はガキだから、古臭い白黒映画なんかには価値を見いだせなかったし、その頃から押井守が気に入らなかったから、彼の崇拝対象であろうと思われるゴジラにも否定的になってしまった。

 

成人してからもゴジラシリーズには全く興味がなかった。特撮バレバレの着ぐるみがミニチュア壊してプロレスしてるの観ても詰まらんと思っていた。「スターウォーズ」やら「エイリアン2」、「ターミネーター2」などのハリウッドの特撮、SFXが基準になってしまっていたから、ちゃちな代物にしか見えなかったし。たまに予告見ても、ああ、ファン向けの伝統芸能ね、という醒めた視線を送っていた。

初めて劇場で観たのはいわゆるギャレゴジこと2014年の「GODZILLA」。大好きな「御家人斬九郎」主演の渡辺謙が重要な役どころと聞いて、お布施しに行ったのと、ハリウッドのVFXに期待してもいたけれど、ふーん、こんなもんかという感想。印象薄すぎて内容は殆ど覚えていない(過去ツイたどると、Newsweek日本版の記事と同感と書いてあった)。

 

2015年に入籍した妻が映画好きなもので、息子を授かる前は毎月何かしらの映画を観に行っていて、話題になってるから行ってみようかと劇場(IMAX)で観たのが「シン・ゴジラ」。上記で述べたように、ゴジラにはそんなに惹かれていなかった。庵野秀明も好きじゃない。

案の定、オタクテイストが鼻につき、エヴァ使徒みたいなゴジラにも拒否反応。特撮映画オマージュらしき、クドいキャプションやら、旧作でおなじみの爆発音などにも辟易。登場キャラクターもエキセントリックな奴か、類型ばっか。本当に人物に興味ねぇんだな。俺はゴジラに思い入れはないんだけど、エヴァっぽい音楽が流れたりして、庵野によるゴジラ映画の私物化という感じにムカつきもした。
それでも絵面はケレンに満ちて迫力もあって、ゴジラの退治方法も途中までは興奮できたんだけど、わざとミニチュアっぽくした列車爆弾とか、トドメとなる、倒れた間抜けヅラのゴジラにドリンク飲ませるシーンには呆れた。同人二次創作にありがちな、内輪ウケ狙いに、風呂敷広げまくりの尻窄み、という残念さに「やっぱあかんなぁ」と劇場をあとにした。

 

その後、最初にマイゴジの情報が流れてきたとき、舞台設定を太平洋戦争直後にすると聞いて、いい着眼点だなと感心した。敗戦して焼け野原になって、そんな泣きっ面に、よりによってゴジラとは、どうするつもりなんだと興味が湧いた。でも、劇場に足を運ぶ気にはなれなかった。やっぱりゴジラには惹かれなかったから。配信を待って、実際に視聴を開始してからは画面から目が離せなかった。ずっと釘付け。
導入部である、大戸島へ着陸する零戦のシーケンスに特撮臭さがまったくない。実写にしか見えないし、着陸場のセットや衣装もよく作り込んである。お陰で従来の特撮物を観るときの「手加減」やら「斟酌」やら「納得」などの我慢が要らない。

アカデミー賞視覚効果賞を受賞したVFXはさすがで、特に特撮の鬼門であるはずの水の表現には感服。まったく違和感がない。木造船でゴジラに追尾されるときの恐怖はたまらん。重巡 vs ゴジラも凄い。

ゴジラ上陸後、家屋や建物が破壊されるときに飛散する膨大な量の破片も、ゴジラの強大な暴力に説得力を持たせている。「地球防衛軍」とかのゲームでこんなの実装されたらたまらんだろうな。あと10年ぐらいかかるか?
戦後の荒廃した町並みや復興途上にあった銀座、人々の装束など、時代的な描写も素晴らしかった。そこにドラマとリアリティがあるからこそ、それらを蹴散らしていくゴジラの乱暴狼藉に迫真性が増す。東京を蹂躙したあとのキノコ雲に咆哮するゴジラは誠に恐ろしかったし、神木隆之介演ずる主人公の絶叫も、そこまでのドラマを丹念に描いていることもあって、胸に迫るものがある。実際、俺は嗚咽が止まらなかった。

やはり、そこに棲まう人々がいて、個々の営みがあるからこそ、街も建物も壊してほしくないのであり、それを壊してしまうゴジラが憎く、怖くなる。いくら建物があろうと、息遣いも感じられないような風景をいくら破壊したって、全然怖くない。子どもがおもちゃ箱ひっくり返してるようなもんで、後片付けしときやーぐらいの感想しか湧かない。ただのデモ映像でしかない。ゴジラ映画にドラマはいらないのかもしれないけれど、あったほうがずっと怖くなる。最初のゴジラを監督した本多猪四郎氏は戦争体験を踏まえたうえで、「民衆のいない怪獣映画は嘘だと思う」と述べていたそうだが、これはそのとおりだろう。

 

最初から最後まで人とゴジラの距離が近いのもいい。お陰でゴジラが実に怖い。これは「シン・ゴジラ」で不満だったとこで、終始、人とゴジラの距離が遠く、直面するのは最後にドリンク飲ませるとこぐらいだったから、あまり怖さがなかった。主人公に至ってはゴジラを目視したのが一度だけで、最終対決は安全な指揮所からだった。暢気な空の下、皆んなで突っ立ってモニタ画面の数字ながめて、後方にいるくせに戦場気分で一喜一憂しているあの絵面も間抜けだった。

そういえば同じ庵野の「シン・ウルトラマン」でも、現場で戦ってた戦士でもある科特隊と違い、禍特対は蘊蓄垂れてあとは現場担当にやらせてたよね。ビートルもスパイダーショットも出てこないしで、アレはホントガッカリした。

マイゴジでのゴジラとの決戦では、主要人物が直接戦場でゴジラと相対し、その暴威をまざまざと受けつつ苦闘してたし、最後は主人公が直接とどめを刺して死闘と宿縁にケリをつけるのがいい。

 

基本、べた褒めだけど、ここどうなってんの?とか、海神作戦ではこうしてほしかった、という点もないことはない。

  • 震電に積んだ爆弾、橘はどうやって入手したの?特攻を否定している作戦だから、野田に怒られると思うんだが。
  • 射出座席、テストも訓練もしないでぶっつけ本番で震電に搭載するのは、ちょっと無理だろ。
  • GHQが手を出さない理由をもっともなものにしてほしかった。米国にもゴジラみたいなのがでてそれどころじゃないとか。
  • ゴジラが水面下1500mに沈んだとき、ゴジラにダメージが入ってる様子が見たかった。
  • 強制浮上させられる最中のダメージ表現も、もう少しだけはっきりと見たかった。
  • ゴジラを縛り付けて切れないワイヤー、強すぎだろう。
  • 浮上後、熱線を吐こうとする際に背びれのいくつかが吹き飛んだりして、断末魔のあがきのような素振り、そしてそれでもなお再生しようとしている様子などが見たかった。

でもまあ、そんなのは些事。あの映像の臨場感は大したもんだ。

 

役者たちの演技も文句はない。主要人物を絞ったこともあって、感情移入もしやすい。佐々木蔵之介のべらんめえはちょっと無理があったかも。彼は京都出身だから、関西弁でやらしたら自然な感じなったんちゃうかなぁ。
明子を演じた永谷咲笑ちゃんには一等賞を上げたい。子を持つ親の立場になると、彼女が画面に現れるたびに涙が出そうになるし、見守り役の近所のおっちゃんみたいな感覚になる。

 

あんまりにも気に入ってしまったので、スマホサウンドトラックともどもダウンロードして通勤中に繰り返し観たり聴いたりして、ついにはまだ劇場でかかってたから観に行ってしまった。小さい小屋だったが、身体に響くゴジラの咆哮が実に素晴らしかった。音楽もバッチリで、テーマ曲の「ジャーン!ジャジャジャ ジャーン!」に重なる「ドジャーーン!」の重いこと重いこと。アレ最高。もう一回、DolbyCinemaとかで掛けてくれねえかなぁ。

 

 

4Kで観たくなってしまったのでついつい買ってしまった…。

わが家の再生環境はPS5 + ヘッドフォン + 一昨年買った4K VIERA。貧弱な環境ではあるが、それでもアマプラの配信よりはずっと画質もいいし、HDRのお陰で様々な輝きがよりよく見える。音響も、擬似的にはなるけれど3Dにはなっている。配信では気づかなかった音も聞こえる。VIERADolby Visionとかにも対応してくれてるんだけど、PS5からはその信号が出ない。もったいないなぁ。