Look on the Bright Side of Things

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どですかでん

昨年BS2で放送していたものの録画を観る。導入部は非常に観るのが辛かった。どですかでんと走り回る六ちゃん。仕事は真面目にしてるようだが必ずグデグデに酔っぱらって帰ってくる日雇い労働者コンビ。なんだかよく解らない口をきかない男。娘(姪)に内職をさせ、自分は働きもせず始終酒を飲んで文句ばかり言ってる元教師。その娘に好意を寄せるものの、決して彼女をその境遇から助け出そうとはしない酒屋の店員。理想の家を建てる妄想ばかりしている浮浪者と、盛り場を巡って彼と自分の食事となる残飯を集めてくる幼い息子。
話がどこに向かうか全く分からず、舞台となるゴミ溜めの街を含めて救いが見えず、なにやら実験映画でも見ているかの気分。置いてけぼりというか、異質な世界に拒否反応。
しかし、彫金師のたんばさんが泥棒に入られるあたりから落ち着いてみることが出来るようになる。ハッキリ言って彼も異常な人なのだが、そのできた人間っぷりに安心するのである。欲求不満からか刀をもって暴れ回るサンピンに「代わろうか?ひとりだと疲れるだろうからボクも手伝うよ」といって騒ぎを静めたのにはクスリとした。
物語は最後まで誰ひとり救われることなく、報われることなく、そのまんまで終わる。「どん底」の現代版かと感じたが、原作者(「季節のない街」)の山本周五郎曰く、「どん底」を意識して書いたとのこと。さもあらん。
ネットで観た評に、スタジオ丸出しの撮影に萎えたとか、セットだと丸わかりなのでリアリズムを放棄したとかいうのがあったが、これは寓話なのだから却ってそのほうが作品に会ってるような気がする。リアリティをもっと追求していたら、ただの凄惨な貧窮話になってますます救われまい。
黒澤の映画だから何か真面目に訴えるものがあるだろう、ヒューマニズムを喚起するだろう、と期待して観てしまうとついて行けなくなる。私も最初はそうだったわけだが、たんばさんのくだりで、これは寓話なんだなと納得してからは気楽に観れた。
この映画が公開された頃に産まれた私としては、伴淳三郎三波伸介などの懐かしい面々の活き活きとした演技が見れたことも嬉しかった。