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アブラムシ

アリ好きな私だが、アブラムシはちょっと嫌いだった。ここでいうアブラムシとはゴキブリのことではなく、一般にアリマキと呼ばれる虫のこと。
アブラムシがなんで嫌いかというと、あの、植物に密集して吸汁する姿が気色悪いのと、春先に大量発生して飛び回り、衣服にへばりつくのが迷惑だからだ。
しかし、色々と調べてみるうちにとても面白い虫なのがわかったので、逆によく観察するようになってしまった。
一般にアブラムシはとても弱く、蜜によってアリに守ってもらう以外に防御の手段を持たないと思われている。だが、アブラムシの中にはそうではない種類もいるのである。なんとある種のアブラムシには兵隊が存在するのだという。
アブラムシは基本的に単為生殖、つまりメスが交尾なしで自らのコピーを生むことによって増える。有性生殖によって卵を産む越冬期以外は卵胎生で、不完全変態だから、親から卵としてではなく、小さなアブラムシとして生まれ出てくる。虫としては異例である。そのため増殖スピードが極めて速く、親の胎内にいる幼虫胚の胎内には既に次の胚が存在し、その胚の中では次の胚を作る準備が既に進行しているほどである。通常ならば生まれた幼虫は10日ほどでそのまま親と同じ姿になって子を産むのだが、兵隊として生まれた幼虫は2令までしか成長しない。つまり1回しか脱皮せず、形も親とは異なるし、子供を産むこともない。
この兵隊は敵が近づくと敵に向かって突進し、発達した前足でしがみついて口吻を突き刺し毒液を注入する。そしてそのまま敵もろとも枝から落下してそのまま息絶えることになる。別の種の兵隊は住処の枝を揺らすだけでパラパラと落ち、落下先が動物だった場合、突き刺して激しい痒みを引き起こす。これは枝を食べる草食動物への攻撃なのかも知れないが、当然、落下した兵隊は元の場所に戻れず死んでしまう。
アブラムシのような小さく弱い昆虫が兵隊を擁して外敵と戦う力を持っているのを知った時、へぇーボタンを20回押したくなった。強力な外皮も武器も持たず、動きも鈍い上に天敵の多いアブラムシは、増殖の早さで数を補うことを生存戦略として選択したのだと思っていたので、兵隊の存在はとても意外だった。
これはアリにも言えることだが、なにをキーにして兵隊と通常個体を産み分けてるんだろう。アブラムシの場合、兵隊と通常個体は遺伝子的にはまったく同じだそうで、何かを引き金にして発現形態を変えるのだろう。そんな仕組みがあんな小さな生き物に備わっているのだから、生命とはとても不思議なものだ。

↓アブラムシが兵隊カーストなどの社会性を有していることを発見した人の著書。
兵隊を持ったアブラムシ (自然誌選書)
↓アブラムシについて一番詳しいと思われるリンク。共生体・共進化の話題が中心。
http://www.moriyama.com/netscience/Nakabachi_Atsushi/