昨日はエースパイロット坂井三郎の自伝的零戦三部作を紹介したが、今まで読んだ自伝の中で、何度も読み返して手放せないものに「イエーガー」がある。
自伝の著者、チャック・イエーガーは人類で初めて音速を突破した元米軍パイロット。第二次大戦中、ヨーロッパで愛機P-51を駆り、一度の出撃で敵機五機撃墜や、世界初のジェット戦闘機Me262を初めて撃墜したという経歴の持ち主で、戦後テストパイロットとなり、音速試験機ベルX-1”グラマラス・グレニス”に搭乗して、初めて音速を突破した男となった。音速突破の様子は映画「ライトスタッフ」でも描かれている。
映画はトム・ウルフの原作の映画化なのだが、映画でも原作でも言及されていない、イエーガーの姿について自伝だけに詳しく教えてくれる。とにかくこのイエーガーは痛快な人だ。
空を飛ぶことが好きで好きでしょうがなく、音速突破はもちろんのこと、数々の記録を打ち立てた。少将にもなれたのに将軍になると戦闘機に乗れなくなるからと、准将でいることを選択。52歳で退役後、NASAやエドワーズのコンサルタントとなり、好きな飛行機を飛ばして過ごした。F-20タイガーシャークがお気に入りの戦闘機。音速突破五〇周年式典の際、会場のエドワーズ空軍基地に、74歳にもかかわらずF-15を操縦して飛来し、音速突破をして見せたそうな。
彼も坂井三郎と同じく準備、態勢作りに余念がなかった人で、テストパイロット時代、他のパイロットが飛ばすことしか頭になかったのに対して、自分の乗機のメカニズムについて徹底的に習熟し、機体特性などもしつこくエンジニアに問いただした上で慎重にテストを重ねていったという。パイロットに供される試験機は当然ながら不安定かつ危険なものが多く、事故が起こる確率が高かった。イエーガー自身も幾度となく故障やそれに伴う事故に見舞われているが、適切な対処を行うことによって生き延びている。
坂井やイエーガーみたいな人達にとって、勝負はやってみなければわからないというようなものではなく、勝つための布石、手順を丁寧に確実に行っていく作業なのだろう。
トム・ウルフの本によると、アメリカ国内線のパイロットが独特のイントネーションで交信するのは、チャック・イエーガーに憧れたパイロット達が、彼の口調を真似たのが始まりだとか。
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